東京地方裁判所 昭和28年(タ)195号 判決
原告 布施サク
被告 布施圭一
一、主 文
被告と本籍東京都向島区吾嬬町西八丁目三十一番地亡中村友吉及びその妻亡キノとの間に親子関係の存在しないことを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
二、事 実
原告は、
主文同旨の判決を求め、その請求の原因として、被告は、本籍東京都向島区吾嬬町西八丁目三十一番地筆頭者亡中村友吉の戸籍に、同人及びその妻亡キノとの間の七男として、昭和十六年七月二十四日出生した様に記載されて居るが、事実は、右両名間の子ではなく、原告と訴外松田鉄太郎との間の子で、昭和十六年七月二十四日出生したものである。然るに拘らず、前記の様に戸籍に記載されるに至つたのは、原告と前記松太郎とが、内縁関係にあつて、正式の夫婦でないので、原告の子として届出れば、将来私生子として、不幸な生涯を送るかも知れないと懸念されたので、真実の届出をせずに、当時生存して居た原告の兄である前記亡中村友吉及びその妻亡キノ間の嫡出子として届出た結果である。而して被告も既に生長し、今年は中学に進学したので、真実の親子の関係を戸籍面に明かにし、父親である前記訴外松太郎の認知をも得てやり度く、本訴請求に及んだ次第であると述べた。<立証省略>
被告特別代理人は、
原告請求通りの判決を求め、答弁として、
原告主張の事実は、全部、之を認めると述べた。<立証省略>
三、理 由
公文書である甲第一、二号証(孰れも戸籍謄本)と証人松田鉄太郎、同根岸静子の各証言並に原告本人尋問の結果とを綜合すると、
原告が、昭和十二、三年頃、訴外松田鉄太郎と知合ひ、その後間もなく、同人との間に関係を生じ、その結果、同人の胤を宿して姙娠し、昭和十六年七月二十四日、男の子を分娩したことその男の子が、圭一と名づけられ、即ち、被告であること、しかしながら、前記訴外鉄太郎には妻子があつて、原告は、右訴外人と結婚することが出来ない事情にあつた為、被告を原告の子として届出ると、私生子として戸籍に記載されるので、被告の将来の為めに良くないと考えた結果、原告とその実兄訴外中村友吉(本籍東京都向島区吾嬬町西八丁目三十一番地)とが相談の上、被告を、右友吉とその妻キノとの間の七男として届出をすることにし、
右友吉から、その様に届出をした為め、右友吉を筆頭者とする戸籍に、同人とその妻キノとの間の七男として、昭和十六年七月二十四日出生した様に記載されるに至つたこと、その後、右友吉は、昭和二十年二月二十二日に、キノは、昭和十九年七月九日に、各死亡したこと、
を認めることが出来る。(右認定に反する証拠は存しない。)さうすると、被告が、本籍、東京都向島区吾嬬町西八丁目三十一番地亡中村友吉及びその妻亡キノとの間の子でないことは、明白である。
ところで、戸籍には、真実の身分関係が表示されて居なければならないのであるから、虚偽の記載が為されて居る以上、真実と合致する様に、その訂正が為されなければならない。それは、身分関係の一方の当事者が、既に、死亡して居る場合に於ても、同様であると解さなければならない。飜つて、本件の場合を見るに、戸籍の記載上、被告の父母とされて居る友吉及びその妻キノは、前記認定の様に、既に、死亡して居るのであるが、被告との関係が、前記認定の通り真実でないのであるから、前記理由によつて、その記載は、真実に合致する様に、訂正されなければならない。而してこの訂正は、身分上重要な事項であるから、判決によつて訂正されなければならないこと勿論である。さうすると、本件請求は、死亡者との間の身分関係不存在確認の訴ではあるが確認の利益があるので、適法な訴であるとしなければならない。(尚実体的な関係から見ても、身分関係の一方の当事者が死亡しても、他の一方の当事者が生存して居る以上、現在の法律関係として存在して居ることになるから、死亡者との間の身分関係不存在の確認を求めることは、現在の法律関係の確定を求めることになるので、この点からしても死亡者との間の身分関係不存在の確認の請求は許されるものと解さねばならない。)(死者と被告との間に親子関係の存在しないことの確認を求める訴は許すべきでない旨の旧大審院の判例-昭和十九年三月七日言渡、大審院民事判例集第二十三巻一三七頁-があるが、前記理由によつて、この判例に従うことを得ない)
仍て、原告の本訴請求は、正当として之を認容し、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文の通り判決する。
(裁判官 田中正一)